はじめに――ホルムズ海峡と農作物の意外な関係
2026年のイラン・イスラエル紛争激化により、ホルムズ海峡の封鎖リスクが急浮上しています。ホルムズ海峡は石油・LNGの輸送路として広く知られていますが、実は世界の肥料貿易においても極めて重要なルートです。肥料が滞れば、農作物の生産コストが上昇し、農産物価格に直接波及します。
今回はホルムズ海峡を通じて輸出される肥料の世界シェアを確認したうえで、影響を受ける作物と農作物ETFへの投資妙味を検証します。
ホルムズ海峡から輸出される肥料と作物
1. 肥料の種類と世界的シェア
肥料の三大栄養素は**窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)**です。このうちホルムズ海峡の封鎖リスクに直結するのは窒素肥料とリン酸肥料です。
窒素肥料(尿素・アンモニア)
【中東主要輸出国】
| 主要輸出国 | 代表企業 | 年間輸出量 (尿素換算) | 世界シェア | ホルムズ経由 |
|---|---|---|---|---|
| カタール | QAFCO(カタール肥料会社) | 約320万トン | 約5〜7% | 全量 |
| サウジアラビア | SABIC・Ma’aden | 約400万トン | 約6〜8% | 約70〜80%※ |
| UAE | FERTIL(ルワイス) | 約100万トン | 約1〜2% | 全量 |
| 中東計 | — | 約820万トン | 約12〜15% | — |
※ サウジアラビアの窒素肥料生産設備の約70〜80%はアラビア湾岸のジュバイル工業地帯(SABIC系)に集中しており、輸出はキング・ファハド工業港(ジュバイル)を通じてホルムズ海峡経由となります。残る約20〜30%はヤンブー・ジェッダ(紅海側)経由のため、封鎖の影響を受けません。
【中東以外の主要輸出国】
| 主要輸出国 | 代表企業 | 年間輸出量 (尿素換算) | 世界シェア | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| 中国 | 各社 | 約1,500〜2,000万トン | 約25〜30% | 国内需要優先で輸出制限が頻繁に発動 |
| ロシア | EuroChem・Acron | 約1,000万トン | 約15〜18% | 制裁リスクあり。欧州向け供給が不安定 |
| エジプト | MOPCO・EFIC | 約350万トン | 約5〜6% | 地中海経由。欧州・南アジア向け |
| マレーシア | PETRONAS | 約200万トン | 約3〜4% | アジア・オセアニア向けが中心 |
| インドネシア | Pupuk Indonesia | 約200万トン | 約3〜4% | 国内農業向け優先のため輸出は変動大 |
| トリニダード・トバゴ | Methanex他 | 約200万トン | 約3% | 北米・南米向け。安定供給源 |
出典:IFA(国際肥料工業協会)統計 / 各社公式IR資料 / SABIC Annual Report / Ma’aden Annual Report
リン酸肥料(DAP・MAP)
| 主要輸出国 | 代表企業 | 世界シェア | ホルムズ経由 |
|---|---|---|---|
| サウジアラビア | Ma’aden Phosphate | 約10〜12% | ジュバイル港(湾岸側) |
| モロッコ | OCP | 約35〜40% | なし(大西洋側) |
| 中国 | 各社 | 約20〜25% | なし |
出典:IFA統計 / Ma’aden Annual Report
カリウム肥料(カリ)はカナダ・ロシア・ベラルーシが主産地のため、ホルムズ封鎖の影響はほぼ受けません。
2. 影響を受ける作物と施肥時期
| 作物 | 必要な肥料 | 主な施肥時期 | ホルムズ封鎖の影響 |
|---|---|---|---|
| 小麦 | 窒素・リン酸 | 秋播き(9〜11月)・追肥(2〜3月) | 高 |
| トウモロコシ | 窒素(多量) | 春播き前(3〜5月) | 高 |
| 米 | 窒素(多量) | 田植え前後(4〜7月、アジア) | 高 |
| 大豆 | リン酸・カリ (窒素固定) | 播種前(5〜6月) | 中 |
| 砂糖きび | 窒素・リン酸 | 年間通じて | 中 |
| コーヒー | 窒素・カリ | 年間通じて | 低 |
2026年3〜5月はトウモロコシ・大豆の春播き施肥期と重なるため、肥料不足が実需に直撃する可能性があります。
日本から投資できる農作物ETF比較
ETF一覧比較
【東証上場】
| ティッカー | 正式名称 | 連動指数 | 特徴 | 信託報酬(年率) |
|---|---|---|---|---|
| 1687 | WisdomTree 農産物上場投資信託 | Bloomberg Agriculture Subindex | 農産物8品目・100%農産物 | 0.49% |
| 1688 | WisdomTree 穀物上場投資信託 | Bloomberg Grains Subindex | 穀物5品目(大豆・トウモロコシ・小麦等)・100%穀物 | 0.49% |
| 1695 | WisdomTree 小麦上場投資信託 | Bloomberg Wheat Subindex | 小麦先物のみ | 0.49% |
| 1696 | WisdomTree とうもろこし上場投資信託 | Bloomberg Corn Subindex | トウモロコシ先物のみ | 0.49% |
| 1697 | WisdomTree 大豆上場投資信託 | Bloomberg Soybean Subindex | 大豆先物のみ | 0.49% |
【米国上場(日本の証券会社で購入可能)】
| ティッカー | 正式名称 | 上場市場 | 特徴 | 信託報酬 (年率) | 主要取扱証券会社 |
|---|---|---|---|---|---|
| DBA | Invesco DB Agriculture Fund | NYSE Arca | 農産物9品目・100%農産物 | 0.93% | SBI・楽天・ マネックス・日興 |
| WEAT | Teucrium Wheat Fund | NYSE Arca | 小麦先物特化 | 1.04% | SBI・楽天・ マネックス |
| CORN | Teucrium Corn Fund | NYSE Arca | トウモロコシ先物特化 | 1.04% | SBI・楽天・ マネックス |
| SOYB | Teucrium Soybean Fund | NYSE Arca | 大豆先物特化 | 1.04% | SBI・楽天 |
| DBC | Invesco DB Commodity Index | NYSE Arca | エネルギー・金属・農産物の広範コモディティ | 0.85% | 楽天・ マネックス |
| GSG | iShares S&P GSCI Commodity-Indexed Trust | NYSE Arca | S&P GSCIに連動・エネルギー比率高め(約60%) | 0.75% | SBI・楽天・ マネックス |
| DJP | iPath Bloomberg Commodity Index Total Return ETN | NYSE Arca | Bloomberg Commodity Indexに連動・農産物約30%含む | 0.70% | SBI・楽天 |
出典:WisdomTree 1687公式 / JPX ETF銘柄一覧 / Invesco DBA / Teucrium公式サイト / iShares GSG / iPath DJP(2025年末時点)
1687(WisdomTree 農産物上場投資信託)の構成割合
1687が連動するBloomberg Agriculture Subindexは農産物先物8品目で構成される100%農産物ファンドです。ホルムズ海峡封鎖の影響を直接受けるトウモロコシ・大豆・小麦・砂糖が主要構成品目です。
| 構成品目 | 比率(概算) |
|---|---|
| トウモロコシ | 約22% |
| 大豆 | 約20% |
| 砂糖 | 約15% |
| 小麦(シカゴ) | 約11% |
| 大豆油 | 約10% |
| 綿花 | 約8% |
| 大豆ミール | 約8% |
| コーヒー | 約6% |
出典:WisdomTree Bloomberg Agriculture Subindex ETF公式 / Bloomberg Agriculture Subindex

1688(WisdomTree 穀物上場投資信託)の構成割合
1688が連動するBloomberg Grains Subindexは穀物5品目で構成されます。ホルムズ海峡封鎖で影響を受ける窒素肥料の主要需要先(トウモロコシ・大豆・小麦)が中心で、1687より穀物への集中度が高いのが特徴です。
| 構成品目 | 比率(概算) |
|---|---|
| トウモロコシ | 約33% |
| 大豆 | 約30% |
| 大豆油 | 約14% |
| 小麦(シカゴ) | 約14% |
| 大豆ミール | 約9% |
出典:WisdomTree Bloomberg Grains Subindex ETF公式

DBA(Invesco DB Agriculture Fund)の構成割合
DBAが連動するDBIQ Diversified Agriculture Indexは9品目の農産物先物で構成されています。1687・1688と同様に100%農産物ファンドですが、畜産(生牛・豚)を23%含む点が特徴です。
| セクター | 主な構成品目 | 比率 |
|---|---|---|
| 穀物(Grains) | トウモロコシ(11%)・大豆(11%)・小麦シカゴ(9%)・小麦カンザスシティ(9%) | 40% |
| ソフト系(Softs) | 砂糖(13%)・カカオ(13%)・コーヒー(11%) | 37% |
| 畜産(Livestock) | 生牛(12%)・豚/リーン・ホッグ(11%) | 23% |
出典:Invesco DB Agriculture Fund 公式ファクトシート

DBC(Invesco DB Commodity Index Tracking Fund)の構成割合
日本からの購入:楽天証券・マネックス証券で取り扱いあり(米国株式口座で購入可能)
DBCが連動するDBIQ Optimum Yield Diversified Commodity Indexは14品目の先物で構成されます。エネルギーが約55%を占める広範コモディティファンドのため、農産物への純粋なエクスポージャーは約23%にとどまります。
| セクター | 主な構成品目 | 比率(概算) |
|---|---|---|
| エネルギー | WTI原油・Brent原油・RBOBガソリン・ヒーティングオイル・天然ガス | 約55% |
| 農産物 | トウモロコシ・小麦(シカゴ)・大豆・砂糖 | 約23% |
| 産業金属 | アルミニウム・亜鉛・銅 | 約12% |
| 貴金属 | 金・銀 | 約10% |
出典:Invesco DB Commodity Index Tracking Fund 公式ファクトシート(概算値)

GSG(iShares S&P GSCI Commodity-Indexed Trust)の構成割合
日本からの購入:SBI証券・楽天証券・マネックス証券で取り扱いあり(米国株式口座で購入可能)
GSGが連動するS&P GSCIは生産量加重型のため、エネルギーが約60%と最も高い比率を占めます。農産物は約15%・畜産7%を含みますが、農業関連コモディティへの純粋な投資目的には不向きです。
| セクター | 主な構成品目 | 比率(概算) |
|---|---|---|
| エネルギー | WTI原油・Brent原油・天然ガス・ガソリン等 | 約60% |
| 農産物 | 小麦・トウモロコシ・大豆・砂糖・コーヒー・綿花 | 約15% |
| 産業金属 | 銅・アルミニウム・亜鉛・ニッケル | 約12% |
| 畜産 | 生牛・豚(リーン・ホッグ) | 約7% |
| 貴金属 | 金・銀 | 約6% |
出典:iShares S&P GSCI Commodity-Indexed Trust 公式ファクトシート(概算値)

DJP(iPath Bloomberg Commodity Index Total Return ETN)の構成割合
日本からの購入:SBI証券・楽天証券で取り扱いあり(米国株式口座で購入可能。ETFではなくETN=上場投資証券のため、発行体(バークレイズ)の信用リスクが発生する点に注意)
DJPが連動するBloomberg Commodity Indexは単一セクターへの過度な偏りを抑制する設計のため、エネルギー・農産物・金属が均等に近い配分になっています。農産物比率は約29%とDBC・GSGより高く、農業関連コモディティとしての代替性があります。
| セクター | 主な構成品目 | 比率(概算) |
|---|---|---|
| エネルギー | WTI原油・Brent原油・天然ガス等 | 約30% |
| 農産物 | 大豆・トウモロコシ・小麦・砂糖・コーヒー・綿花 | 約29% |
| 貴金属 | 金・銀 | 約19% |
| 産業金属 | 銅・アルミニウム・亜鉛 | 約17% |
| 畜産 | 生牛・豚(リーン・ホッグ) | 約5% |
出典:iPath Bloomberg Commodity Index ETN 公式(概算値)

他のコモディティと比較した農作物ETFの価格変化率(2025/12/31〜2026/3/30)
2025/12/31終値を基準に、2026年3月30日終値までの価格変化率を比較します。
| 資産 | 種別 | 2025/12/31 | 2026/3/30 | 騰落率 |
|---|---|---|---|---|
| 金(GLD) | ETF | $396.31 | $414.58 | +4.6% |
| 銀(SLV) | ETF | $64.42 | $63.52 | -1.4% |
| 銅(CPER) | ETF | $34.96 | $33.59 | -3.9% |
| パラジウム(PALL) | ETF | $145.38 | $128.11 | -11.9% |
| アルミニウム(ALI=F)※1 | 先物 | $2,906 | $3,336 | +14.8% |
| WTI原油(USO)※2 | ETF | $69.16 | $129.83 | +87.7% |
| 天然ガス(UNG) | ETF | $12.26 | $11.68 | -4.7% |
| 農産物広範(DBA) | ETF | $25.52 | $27.12 | +6.3% |
| 小麦(WEAT) | ETF | $19.97 | $23.26 | +16.5% |
| トウモロコシ(CORN) | ETF | $17.73 | $18.29 | +3.2% |
| 大豆(SOYB) | ETF | $21.86 | $24.17 | +10.6% |
※1 アルミニウムは日本から投資可能な純粋ETFが存在しないため、CMEアルミニウム先物(ALI=F)の価格を参考値として掲載。単位はUSD/トン。
※2 USOはWTI原油先物のロールオーバーコストを含むため、原油スポット価格との乖離が生じる場合があります。
※基準価格は2025/12/31終値。
出典:Yahoo Finance(yfinance)取得データ(2026年3月30日時点) / SEC EDGAR ETFデータ

まとめ――農作物ETFへの投資戦略
- ホルムズ海峡が封鎖された場合、世界の窒素肥料の約12〜15%・リン酸肥料の約10〜12%が供給途絶するリスクがある。
- 影響が最も大きい作物はトウモロコシ・小麦・米:いずれも窒素肥料の依存度が高く、2026年春の施肥期と封鎖リスクが重なっている。
- 大豆は窒素固定能力があるためリスクは相対的に低い。
- 東証上場の農産物ETFはWisdomTreeシリーズ(1687〜1697)が中心。 1687は農産物8品目・1688は穀物5品目・1695〜1697は単一作物特化型で、すべて100%農産物ファンド。円建てで購入できるため為替手数料が不要。
- 米国上場ではDBA(農産物9品目)・WEAT・CORN・SOYB(単一作物)が利用可能。 DBC・GSG・DJP(広範コモディティ)はエネルギー・金属も含むため農産物への純粋なエクスポージャーには不向き。
- WEAT・CORN・SOYBおよび東証の1695〜1697は単一作物特化型のため、特定作物への集中投資が可能。ただし純資産総額が小さく流動性に注意が必要。
- 肥料価格の上昇は農産物コストに数ヶ月遅れて波及するため、播種前の3〜5月の肥料調達コスト上昇が夏以降の農産物価格に影響する可能性がある。
ホルムズ海峡封鎖により肥料にも影響があること、また現在の時期は小麦・トウモロコシ・米に大きな影響を与える可能性があることを学びました。
今年に入ってからのコモディティ価格の増減に注目すると、原油と比較して小麦やトウモロコシの増加率は小さいことが分かります。そのため短期投資としてはWEAT、CORN、1695や1696が面白いかもしれません。
長期的なインフレリスクヘッジとして、信託報酬の比較的安い1687や1688を少しずつ買う戦略もありかなと考えています。
(UnsplashのMarkus Spiskeが撮影したイラスト素材)
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